味わう

味わう

一器・一花・一菓
清涼な伽羅いかが
めでたい獅子蓋牡丹文の香炉
香を添えて消夏の趣向
開始ずれ水屋は冷や汗

IMG_1053.JPG

 有楽流伝書に載る「香之茶湯」。香をたしなむ茶人を茶会に招いたおり、客が持参した香木を聞いたり、亭主が持つ銘香を楽しんでもらう茶会の趣向です。江戸前期までは、名だたる茶人は香も当然のようにたしなんでおり、茶人すなわち香人系譜に名を連ねる茶・香一如の様相でした。長崎に渡来した評判の香木を、京都の御所と前田家、細川家、伊達家で分けあった「一木四銘の銘香」のエピソードは、そうした背景があって、生まれたのでしょう。

IMG_1051.JPG
さて、先日、拾穂園で催した四季の茶の湯では、エアコンがきいた寄付にて冷煎で喉を潤してもらったあと、席入り前に、嗅覚でも清涼感を味わってもらおうと、香一種を聞き回しました。家木のうちから、清涼な芳香が特徴な伽羅を選びました。

香炉は、獅子をかたどった蓋付きの青磁です。香炉本体は、能の作り物の一畳台を深くしたような長四角の立方体で、四方に牡丹が浮き彫りになっています。

IMG_1050.JPG

 牡丹は百花の王として好まれ、豊かで絢爛な姿から富貴花として称美され、獅子は龍や鳳凰、麒麟などと共に中国でも縁起がいいとされてきた「瑞獣(ずいじゅう)」です。牡丹に戯れる獅子は、能の「石橋」や歌舞伎の「石橋物」でもお馴染みのモチーフ。
この香炉は、能の石橋の世界を香炉に造形したようでありながら、獅子はどこかユーモラス。とぼけたような表情に愛らしさすらあります。
 香道を極めた方を招いたので、水屋の担当はいつにも増して神経を集中して、香炉灰を温め、タイミングを見計らって香炭団を灰に埋め、銀葉に伽羅の一片を載せて、聞香に備えました。
香を聞いてもらったあと、「今日のお香は、いかがでしたか」と尋ねると、香人は「火加減もよく、よく聞けました」と微笑みました。

IMG_1071.JPG
 実は、香人をもてなすため、事前には伏せたサプライズ企画でした。連客の都合で参集時間が少し後ずれしたので、聞香が始まる時間も遅れて、水屋はやきもき。参集時間から逆算して、炭団の火を起こしてあり、灰に埋めた真っ赤に燃え盛る炭団がいつまで火持ちするか、じりじり待っていたのです。なんとか、ぎりぎりセーフでした。
 茶会の遅参は、禁物だと自戒した次第です。