一器・一花・一菓
古備前の大ぶり手鉢
見立ての水指に
涼を呼ぶ葉蓋
古備前をテーマに、いかに涼を演出するか。先日開いた拾穂園四季の茶の湯は、初使いの古備前をいくつか引っ張り出してきました。その中で、もっとも腐心したのが、大ぶりの手鉢です。これまで、何度か茶会で披露しようとしては、その強烈な存在感から、他の道具との映り、バランスが難しく、引っ込めざるを得なかった代物です。
直径40センチ余ある平鉢。縁の一部を窪ませて変化する縁に食い込むように、がっちり渡した手は、あたかも堅固な橋のよう。何十日も窯焚きし、焼き締めた古備前。激しい炎を浴び続けても、へたらなかった、このブリッジ。備前の陶土の強靭さ、陶工の優れた技が生んだ、土と炎の奇跡を見るようです。
何百時間も炎とともに赤松の割木の灰を被り続けて生じた備前焼特有の窯変「胡麻」が降って、胡麻は一様でありながら、仔細に見れば千変万化。平鉢の表面には、小さな器を置いた跡に生じた焼けムラの「牡丹餅」が三つ。味わい深い土味を見せています。
最初のプランでは、この手鉢を水盤に見立てて、花を活けようと目論みました。しかし、それではいかにも安直、芸がない。いっそ、見立ての水指にしようと方向転換しました。こんな大きな鉢を覆うことができるのは、蓮の葉しかなく、蓮の入手にひと苦心。蓮の葉は水揚げが難しく、注水ポンプを使って水揚げ。葉脈から水が滲み出るほど水揚げして、席入りに備えます。
さらに葉蓋にするだけでは、ありきたりと思い、この強烈な造形美を誇るブリッジを生かす、ひと工夫は。そうだ、茶筅・茶杓飾りをしてみたら面白いと思い、なんとか載ることが分かりました。
ブリッジを際立たせるため、わざと手鉢を斜めに置いて、その造形の強烈さを強調。手鉢の水指の存在感が圧倒的で、隣り合う鉄釜・風炉を載せる敷瓦は、そんじょそこらの織部瓦では釣り合いが取れません。江戸初期の分厚い織部瓦に置き換えて、やっとバランスが取れました。
蓮の葉蓋には五百円玉ほどの水滴を浮かべて、涼味満点。蓋を取ると、大きな水盤が登場するサプライズが待っています。
後座の薄茶では、手鉢は本来の用途に戻って、菓子器として茶席にだしました。手にとって鑑賞してもらうためでもあります。焼き鮎をかたどった和菓子を笹の葉を敷いた上に置いて。鮎の塩焼きのようです。懐石道具でしかない手鉢ですが、使いようによっては、初座、後座の一人二役の大活躍の巻でした。