一器・一花・一菓
東大寺名椿・糊こぼし
水盤に、竹花入に
奈良・東大寺の開山堂の基壇脇に、開祖良弁僧正が植えたと伝わる「糊こぼし椿」。「門外不出の原木」の小枝から挿し木して育てた糊こぼしが、東大寺二月堂の修二会のクライマックスに合わせたように咲きました。
竹の花入には、咲き出した一輪と、まだ蕾の一輪を投げ入れました。このところの温かさで、一気に蕾が膨らみ、既に満開の花も。紅の花びらに白い糊をこぼしたような斑入りの大輪です。
茶席の花は、生け花と違って、満開は避けますが、これを捨て置くのはいかにももったいなく、花のかんばせを愛でるのも一興と思って、水に浮かべて見ました。灰器を水盤に見立て、糊こぼしを二輪。これに純白の大輪を添えたらと思いつき、加茂本阿弥の満開の一輪を添えて。三つ巴の椿が、春を呼び込みます。
花入の敷板は、二月堂の舞台でたいまつを振って火の粉を散らす「お松明」の残材です。「二月堂」の焼印入り。以前、天平時代から近代まで東大寺ゆかりのお道具を散りばめて茶会をしたところ、その趣向に「感動した」という大先輩の茶人から「この敷板は、あなたが持っているのがふさわしい」と頂いたものです。
今月1日から続く修二会は14日が最終。早春の古都の夜空を焦がす「籠松明(かごたいまつ)」の火の粉の滝の情景が、焼け焦げた残材から浮かび上がってきます。
拾穂園に咲く糊こぼしは、小枝を挿し木して20年近く経ちました。とにかく成長が遅く、鉢植えで育てた苗を庭の一隅に定植して、やっと、ハサミを入れることができるまで待った甲斐がありました。
やはり、遺伝子は原木そのもの。由緒正しきは、花芯の形といい、斑入りの加減と言い、気品があります。園芸種の糊こぼしとは微妙に異なり、品格が違います。
糊こぼしの咲くタイミングは難しく、お水取りをテーマにした茶会はなかなか、あらかじめ予定が組みずらいもの。しかし、機会を見て、古都の春をテーマにした茶会が開くことができたら、と思っています。