一器・一花・一菓
「枯野の一葉」黄伊羅保
お薄の茶碗なら最上だが
幾つも連なり続いている高山の峰々のように、個性豊かな高麗茶碗。その峰々に連なる伊羅保茶碗は茶人なら誰しも憧れ、いつかはよじ登って手中にしたい茶碗の一つです。
高台から直線的に立ち上がった姿。素地に夾雑物が多く含まれ、手触りがイライラしているのが伊羅保の特徴です。特にこの手の碗は黄色を帯びた釉が掛かっていることから「黄伊羅保(きいらぼ)」と呼ばれます。江戸初期、日本からの注文でつくられたものと考えられています。
一種の御本茶碗で薄作だからでしょうか。いくら茶味深い茶碗であっても、うるさがたの間では「黄伊羅保を濃茶で使ったら笑われる。お薄の主茶碗なら上の上」と言われています。背伸びして手に入れた黄伊羅保。薄茶オンリーとは殺生な、とグチを言いたくなりますが、それが茶の世界の不文律のようです。
先日拾穂園で開いた晩秋の茶会では、やせ我慢して薄茶の、しかも二番手で使ってみました。目の肥えたお客から「ほおーっ」という嘆声が上がりました。やせ我慢の甲斐がありました。
枯野にひっそり舞い落ちる黄葉のような、さびた味わいがうれしい茶碗です。
和菓子は、茶どころ名古屋を代表する名店、芳光製のきんとん製。侘び茶碗と対照的な華やかさ。味わいは、ともに上の上です。