味わう

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一器・一花・一菓
与次郎の尻張釜
炉に重厚感、釜湯も美味

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桃山時代を代表する釜師、辻与次郎。千利休好みの釜を鋳造した「天下一」の称号を得た名工です。阿弥陀堂釜、雲龍釜、丸釜など利休好みの釜の中で、最も重厚な趣きを持つのが、尻張釜です。

拾穂園所蔵の尻張釜は、高さ20センチ、口径13センチ、胴径29.5センチと炉壇ぎりぎり、なんとか入るサイズです。湯水が10リットル近く入ろうという大容量です。
岩膚風の膚のつくりとてらいのない率直な形が調和し、胴上部には鬼面の鐶付(茶釜の鐶を通すための耳)が付いて、剛健かつ滋味ある釜です。
茶道の世界では名だたる道具持ちが旧蔵していた、いわゆる「「伝来もの」です。
蓋は複数添っており、盛り蓋や平蓋より、より釜の形にあう掬(すく)い蓋を取り合わせて、炉開きに臨みました。

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炉開きらしく「式正」の雰囲気を出した濃茶から、後座の薄茶では模様替え、ぐっと侘びた感じを演出したく、台目据えにして木地の炉縁、焼締の水指を取り合わせてみました。
さすが、与次郎です。釜の湯水が美味しく、よく煮えた釜湯によって茶の味が一段と引き立ちました。江戸時代中後期までの名のある釜師や、無名であっても芦屋、天明の釜ならたいがい、釜湯は美味しく、柔らかになります。しかし、釜によってその程度に差異があると実感しています。どうも鑑賞にたえるいい釜ほど、湯水が美味しいようです。
時節柄、本来呑みまわしの濃茶も昨今は各服点て。各服点ての湯も、あらかじめ与次郎の釜湯を取り置いて、次客以下の濃茶は水屋から練って出しました。

各地の名水がペットボトル詰めでたやすく手に入りますが、いい釜で煮た湯水にはかなわない。炭火で煮た釜湯はなおさらです。その効用は、抹茶のみならず、煎茶でも、コーヒーでも同様に感じます。
炭火ならずとも電熱でも釜湯は作れます。煎茶通、コーヒー通も、どうぞお試しあれ。