一器・一花・一菓
脇役ながら主役食う風炉先
江戸初期の能筆が六歌仙名歌
風炉先(ふろさき)屏風。略して風炉先。4畳半以上の広間茶座敷で用いる二つ折の屏風です。茶席の釜や水指を置く道具畳の向こうに立てて道具を保護する役割のほか、亭主が茶を点てる際に座る点前座を引き立て、茶室全体に緊張感を与える役割もあります。茶席の脇役ながら、使いようによっては、主役以上に存在感を放つことがあります。
来週9月17日、拾穂園で催す夕去りの茶事で使おうと、取り出したのは、近衛信尹、烏丸光広ら安土桃山時代から江戸初期に活躍した皇族・公家の能筆6人が、古今和歌集を代表する平安歌人6人「六歌仙」の名歌を筆写した風炉先屏風です。
「寛永一九のとし 道晃親王」の年号、落款がある大伴黒主「思ひ出でて恋しき時は初雁のなきて渡ると人知るらめや」など歌6首です。
いずれも紙背に仏像をかたどった板木で押印した印仏の色紙様の紙が使われており、何かの機会に能筆6人が筆を振るって奉納、供養でもしたものなのでしょうか。一紙ごとに短冊状に12分割して、金箔の下地に張り合わせ、全体が貼り混ぜしたようにバランスよく配置されています。
仔細に見ると、位の高下によって配置が微妙に上下しており、有職故実にも明るい茶人が好んだもののようです。
一紙ずつ取り出せば、掛け軸にもなる能筆を、一双の風炉先に貼り込んだ贅沢さ。この風炉先では、本席には歌切は御法度です。さて、この主役を食いかねない風炉先を生かして、どう夕去りの茶事の物語を組み立てるか。亭主の腕の見せどころですが、とても悩ませもします。