味わう

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格調の中置「三斎一ツ置」
季節感に膨らむ連想
下村宗隆さん吉祥会で新風

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 茶どころ名古屋にお茶会シーズンが到来、その魁となった月釜、吉祥会が2022年9月1日、名古屋・栄の名古屋美術倶楽部で開かれました。尾州久田流6代家元下村宗隆さんが懸け釜、流儀を超えた数寄の心を久田流茶道にちりばめた先代瑞晃宗匠の茶風を継承しつつ、より流派の独自性を色濃く打ち出した点前、取り合わせです。

 名残りの中置点前をいち早く用いた格調の「三斎一ツ置」の点前座、灰形は前瓦まで灰化粧を施す「織部一文字」など流儀に伝わる独自性を強調しつつ、季節感に添って故事の連想を膨らませる趣向で、大勢の茶客を魅了しました。

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 コロナ禍以来、開け放って一体使用していた二間を寄付、本席に分ける本来の間取りに戻りました。

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 寄付には、江戸後期の
久田流宗匠、耕甫の菊画賛。9月9日の重陽の節句にちなんだ趣向を暗示します。

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 展観された薄茶器は、岸一閑作の一閑張雪吹。銘「重陽」の通り、蓋の表にざっくりした菊の絵が朱塗りで描かれています。蓋裏に金森宗和の在判。珍器です。「姫宗和」に「乞食宗旦」が好んだ一閑棗とはなぜでしょうか。千宗旦お出入りの飛来一閑ではなく、岸一閑作というのがミソです。明末に日本に亡命した初代飛来の長女、 岸田ゆきは御所仕えの岸田喜右衛門に嫁ぎ、内職として父から教わった飛来家門外不出の一閑張を始めました。ここから宗和と岸一閑の線は繋がります。ゆきの子孫数代は一閑張を家業とし、彼らの作品は「岸一閑」と言われ、江戸前中期の古作となります。展観品はすこぶる状態がよく、大切に保管されてきた伝世品と見受けました。IMG_7182.JPG

 9月9日に雛人形を再び飾り、長寿の願いを込めるという「後(のち)の雛祭り」という風習に連想して、香合は向かい鶴蒔絵の菱形錫打ち。青あがりの高麗茶碗ととやは薄手で小粋、シャープな造形です。
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 茶杓は、明治〜昭和前期に活躍した財界茶人髙橋箒庵作の銘「あら磯」。尾州久田流の初代、西行庵・下村実栗は、晩年、東京・御殿山の益田鈍翁主宰の天下の大茶会「大師会」で席主をつとめました。名だたる財界数寄茶人に伍して引けを取らない侘びて巧みな趣向を、箒庵はかの東都茶会記で絶賛しました。この交流を踏まえての箒庵共筒茶杓でしょう。
 名古屋にとってうれしいのは、この茶杓、戦前の名古屋の財界茶人高橋蓬庵への贈りもの。蓬庵こと高橋彦次郎は「高彦将軍」の異名をとる辣腕相場師として鳴らし財を築き、名古屋・丸の内にあった本邸に松尾流の好みを以って造られた茶室蓬庵は昭和41年に熱田神宮茶苑に移築。神宮茶苑で最も侘びた小間で、コロナ禍前は月釜の濃茶席として親しまれた茶席です。老舗菓子店、美濃忠の前に、漆黒の塗壁が黒光りしていた土蔵が威容を誇っていた高橋家は近年、跡形もなく取り壊され、マンションになっています。

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 さて、本席に進むと、床に堂々たる一行が。藤村庸軒の弟子、山本退庵が筆をふるった「掬水月手在」です。庸軒は小堀遠州に茶法を学び、のち千宗旦に師事し庸軒流を開いた江戸前期の茶人です。退庵は庸軒流の茶が盛んだった琵琶湖の西岸、堅田の人。水を掬えば、月が手のひらの中に映っている意の禅語です。医者だった退庵の一行は珍しく、その弟子で「矢倉蔵帳」で知られる京都・矢倉九右衛門家の伝来というのも、茶数寄にはたまらぬ軸です。やや小ぶりの耕甫在判の竹釣り舟花入銘「漁」に、秋海棠に女郎花を投げ入れて、重菓子は両口屋是清製の貝形のじょうよ、銘「初雁」。琵琶湖畔の初秋の情緒満点です。

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 点前座は、いち早く名残の風情、風炉の中置です。風炉最後の10月の名残りを前倒したしたことについて、宗隆さんは「当流では、九月になると中置をします」。
 釜はなお続く残暑を払うような風鈴釜を、名越弥五郎の唐金肩衝風炉に据えて。拝領の蓋置を披露する際の点前、細川三斎一ツ置き。唐金蟹蓋置が長板右側に置かれ、否が応でも蓋置に目がゆきます。太閤秀吉の勘気を被って蟄居・自裁を命じられた千利休を淀川べりで見送った三斎と古田織部の故事にちなんでのことでしょうか、灰形は尾州久田流に伝わる織部好みの一文字。
御本狂言袴の水指と見まごう古萬古焼の細水指。菊型の象嵌があり、重陽の節句にちなんでの菊尽くしのうち。

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 尾張・知多地方に久田流の茶が根付く淵源になった両替町久田家8代 春斎耕甫(1751~1820年)をはじめ、尾州久田流歴代のゆかりの道具をさりげなく散りばめて、侘び数寄の流風を受け継ぎながらも、流派を超えて称揚されるキリッとした寂び道具を、歴史、故事、季節感に添って連想づけ、取り合わせる妙味。茶略に満ちた茶会でした。

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なお、同時開催の吉祥会茶器展示即売会は、値打ち品が多く、茶会シーズン到来により、次々売れ活況を呈していた。次回は11月1日。