一器・一花・一菓
蕎麦茶碗に杉へぎ板
松華堂くず餅を味わう一服
緑が濃くなった茶庭に蝉の声がすだく夏の朝、家蔵の蕎麦(そば)茶碗を久しぶりに取り出しました。
和菓子の名店、半田・松華堂のくず餅を杉へぎ板の銘々皿に載せて、朝の一服を服しました。夏は木地を濡らした器が好まれ、鉈を使わずに杉を剥いだ木目が清々しく、右下角を隅折にしたひと手間に、職人技が冴えます。
蕎麦は高麗茶碗の一種。平茶碗で、やや荒い素地に失透気味の釉(うわぐすり)がかかっています。釉薬がかかった高台は低く、大振り。名の由来は井戸茶碗ではないけれど井戸に近い「側(そば)」から出たという意味からとも、地肌の色合いが蕎麦に以ているからとも、いいます。侘び茶に適う茶碗の一つです。
拾穂園所蔵の蕎麦茶碗は、口径16.5センチ、高さ5.8センチ。重さは240グラムと軽く、一見、瀟洒な作ゆきの平茶碗に見えます。しかし、見込みは深く吸い込まれるような力感が内にみなぎっています。
林屋晴三責任編集「高麗茶碗 第三巻」に、「夏月」「残月」「花曇」など伝世品11碗が紹介されておりますが、それらの重さが270〜330グラムであるのと比べると、拾穂園蔵は最軽量級のようです。
蕎麦は写しには時々出合います。いずれも見込みが浅かったり、平かったり、と本歌と似て非なる作行きのことが多く、作り手は本物を手に取ることなく、図版だけで写しを作っているかのように感じます。
確かに、本手に邂逅することは稀です。林屋晴三氏は同著の中で「本手蕎麦といえる一定の特色を持つ茶碗は二十碗前後しか伝世していないのではないかと思われる」と述べ、その希少さを指摘しております。
愛知県稲沢市の拾穂園では、今年は「高麗茶碗」を年間テーマに、四季折々の趣向に富んだ茶会とともに、茶器研究会を開催しております。次回は、今回取り上げた蕎麦茶碗のほか、「ととや」「柿の蔕」をテーマに、以下の日程で開催します。人数限定です。
◉7月23日(土) 拾穂園四季の茶の湯&茶器研究会 一般7,000円
第6回納涼茶会&高麗茶碗Ⅵ ととや・蕎麦・柿の蔕編
10:30~、 14:00~
お問い合わせ、申し込みはメールで。詳細をお知らせします。
sabiejapan2021@gmail.com