味わう

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古代の息吹と壮麗ロマン
組太鼓「まといの会」が意欲作「ジッグラト」
ヒロイン加藤おりは多彩な舞

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 和太鼓芸能集団の新鋭「まといの会」が結成5年にして、旧約聖書の「バベルの塔」の物語を基に、組太鼓演奏と和洋のアーティストとの競演で挑む新作舞台「ジッグラト」を初演しました。よくある民謡、民踊とのコラボではなく、舞踊、篠笛、箏、演劇の多彩なジャンルの名手たちと競演。太鼓メンバーたちも古神道の行者に扮して演技、所作をしつつ演奏し、古代の息吹を現代に蘇らせる舞、音色と、太鼓の波動とを共振させました。

 会の主宰者で傑出した太鼓奏者である神谷俊一郎さんが演出を手がけました。異ジャンル融合の舞台をバベルの塔の物語になぞらえ、日本人の眠れる古層の記憶、潜在意識を喚起して、新たな総合舞台芸術を創出しようと、果敢に挑みました。

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 ジッグラトは古代メソポタミアにおいて建設された巨大な聖塔バベルの塔。古代日本でも同様な試みをした、あるいは遠く渡って合流したいう一群があったという見立てでしょうか。修験道の山伏のような白装束の男たちが、太鼓・鳴り物の演奏をしつつ、古神道の儀式の作法、呪文を取り入れた演技で、8つからなる楽曲によって物語は進んでゆきます。

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 神谷さんをリーダーとする圧倒的な組太鼓の妙技に、舞踊、篠笛、箏、演劇の名手たちが呼応、異色の舞台は熱く燃えました。それぞれの場面一つひとつはよく練ってあり、名人技にあふれて魅力的です。狂言回しにうってつけの実力派俳優陣=吉見亮さん、布施安寿香さん=静岡県舞台芸術センター(SPAC)所属=を起用。預言者のような役回りを演じました。
 しかし、なぜか第1曲と終盤にしか登場させず、全8曲で構成された場面をつなぐ「語り」が中抜け。ストーリーテーラーの不在によって物語を束ね、推進する力が希薄になったように感じました。

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 終曲「太鼓組曲」では、打ち手・鳴り物10人からなる組太鼓が円陣を組んで、中央の特大太鼓の連打でバベルの塔を太鼓音楽で構築して行きます。

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 天にも届く高みを目指す太鼓の大塔を目論みましたが、地鳴りのような太鼓の重い響きは天にそびえ立つというより、地底を揺らすよう。

 リズムの木造伽藍は築けても、天にも届く大塔のイメージを共有できないまま、太鼓の伽藍は神の怒りに触れて崩壊しました。あっと息を呑む「屋台崩し」のイメージを、太鼓演奏と俳優の語りだけで創出できたかは、微妙だと思いました。照明の活躍しどころのはずですが。

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 スペイン舞踊の加藤おりはさんが、フィナーレを含めると5つの場面に登場し、それぞれのシーンを牽引するヒロインを演じました。第2曲「天空」では、新体操のリボン技を応用した優美な舞で大洪水によるノアの方舟の伝説を象徴します。

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第4曲「たたら舞」では、五十鈴を打ち鳴らし旋舞しながら地鎮のダンス。地霊を鎮める古来の舞の型と、フラメンコ由来の様式美を融合させたダイナミックで古くて新しい奉納ダンスです。

 第5曲「宵の鎮め」では篠笛(藍羽)の音色に合わせて静かな舞。

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 圧巻は第6曲「屯(たむろ)」。車座になった組太鼓が生み出す熱狂の変拍子の渦の中心部にあって、雌伏から立ち上がるや飛び跳ねつつ裸足で複雑なリズムを刻み、地鎮の祝祭性とともに生贄儀式の残酷さを超絶技巧で披露しました。
加藤さんはこの曲でフラメンコダンサーの武器である足を打ち鳴らしてリズムを刻むサパティアード(靴音)を封じられましたが、繰り出す変拍子のリズム感を全身で表現。舞台芸術になる以前のロマ族の裸足の大道芸もかくや、と思わせる"原初フラメンコ"が引き出されたようでした。

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 フィナーレでは、真紅の衣装に赤いバラを付けた派手なフラメンコ衣装で、宗教儀式的な踊りから一転して、生きる喜びをサパティアードを全開、踊り抜きました。
新体操由来のリボン技、古代舞踊、超絶技巧のフラメンコなど、加藤さんの表現の引き出しの多様さ、幅広さには驚かされました。

 太鼓演奏とスペイン舞踊のサパティアードという生身の打楽器がどうリズム競演してゆくのか、楽しみ

にしておりましたが、スペイン舞踊公演では必須の靴音を拾うマイクがなく、サパティアードの打音は太鼓の音の渦の中にかき消されてしまい、残念でした。

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 素朴な古代の和琴を清らかでどこか神秘的な響きとして現代に再生させた箏の杉浦充さん、自在な調性、音色を操る篠笛の藍羽さんら、地元勢の名技も舞台を盛り立てました。

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 何より、神谷さん率いる組太鼓メンバー10人のうち数人はソリスト級の腕前。アンサンブルの精妙さとジャズ奏者並みの即興性を兼ね備えており、太鼓演奏だけでじゅうぶん一本立ちできる中身の濃さです。これに、曲打ちのエンターテイメント性を盛りつつ、怒涛のリズム攻勢で観客を魅了しました。

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 まといの会は、佐渡島を拠点に世界に羽ばたく太鼓芸能集団「鼓童」出身の神谷さんが、東海地方の太鼓グループ30団体のリーダーに声を掛け、2017年に結成。神谷さんの出身地・愛知県安城市を拠点に、和楽器の演奏会を開くとともに異ジャンルとのアーティストとのコラボに取り組んでいます。今回、和太鼓では異例のストーリー性のある作品に初挑戦しました。今後の活躍が楽しみな新興勢力です。
2022年5月14日夜の部、名古屋市千種文化小劇場での公演所見
=WEB茶美会編集長 長谷義隆  (写真提供・まといの会)