名椿・糊こぼし咲く
東大寺開山堂 原木から挿木
亡き茶兄をしのぶ
古都奈良を代表する名椿、糊こぼし。東大寺二月堂のお水取りに合わせて咲かないか、咲いてほしい、と毎日願うように眺めていた拾穂園にある糊こぼし。このところの暖さにより、やっと開花しました。
糊こぼし原木から、挿木して花開いた椿です。
原木は非公開の東大寺開山堂にあります。門外不出の原木の切り花を縁あって入手。「私が預かって丹精するから」と挿木して10数年。育ててくれた茶兄は今年1月に亡くなりました。生前、鉢ごと頂戴して、拾穂園の一隅に定植したひともとです。
紅の花びらに白い糊をこぼしたような斑入りの大輪の椿です。斑入りのバランスもほどよく、さすがに品格があります。磁州窯の大徳利に投げ入れてみました。
お水取りに先立って、修行僧の練行衆は行に使う「椿の花」を紙で作ります。ある時、誤って赤い紙の上に糊をこぼしてしまい、その造花についた糊の斑点が、開山堂の庭にある斑入りの椿が似ていたことから、「糊こぼし」と名付けられました。
茶兄と深夜、冷え込む二月堂の堂内にこもって、僧侶たちの声明に合わせて南無観自在、ナムカン、ナムカンと唱和したのも懐かしく思い出します。
実は、茶兄は名椿を集めており、挿木などで増やしていました。終活の一環なのでしょうか、品種不明になった椿の苗木を「咲けば、わかるから」と一度にたくさんいただき、それを3年前に庭に植え替え。水やりは欠かしたことはないのに、多くはなかなか花を付けるまでに至らずにいたところ、今朝、庭を見回っていると、斑入りの椿が一輪咲いているのを見つけました。
椿をこよなく愛した茶兄が「いい椿だろう。由緒正しき糊こぼしだぞ」と微笑んでいるように感じました。