テアトル・バンブー「ON THE STAGE」 多様なキャラ立つ
役者、音楽、演出に生彩
劇場版"シンデレラ物語"と思いきや‥
2014年結成、名古屋を拠点にするミュージカル劇団テアトル・バンブーがオリジナルミュージカル第8作「ON THE STAGE」(竹内裕二演出・脚本)を2021年11月6、7の両日、名古屋市芸術創造センターで初演しました。脚本・音楽ともオリジナルの新作ミュージカルを、コロナ禍の困難な状況下、上演にこぎつけたこと自体、まず拍手を贈りましょう。
舞台に関わる俳優、ダンサー、裏方スタッフのそれぞれの人生を歌い上げるのがテーマです。主人公の無欲すぎる結末に肩透かしをくらいましたが、メロディアスな押山晶子作曲の音楽に助けられ、多くの役者はそれぞれの役を歌と演技でキャラ立ちさせておりました。
舞台は、ニューヨークの劇場街にある小さな劇場サンライズシアター。モップを手に働く若い掃除係エミリー(藤井寿乃)は、舞台に命をかける俳優とスタッフに囲まれた暮らしが大好きです。公演中の作品は不入りが続き、俳優やスタッフはいつクビになるかビクビクしています。劇場主コナー(松井仁)は案の定、上演を急きょ打ち切り。新進気鋭のいい脚本を得て、別居していた作曲家の妻バーバラ(貴葉)を口説いて、新作に劇場の起死回生をかけます。しかし、上演2日前に主役の女優アンジェラ(水藤美那)が稽古中に負傷降板します。
その窮地を救ったのが、こっそり台本を読み、歌やセリフをそらんじていたエミリーでした。作品は予想外の大ヒット。エミリーは一躍スターになるも、根は控えめ、復帰したアンジェラを気遣って、思わぬ決断をする‥。藤井さんは等身大の主人公を演じて、性根をつかまえた演技と歌唱です。ただ、人生の運が開けた矢先のまさかの選択。夢のない成り行きを、藤井さんのけなげな演技がフォローします。周りでは様々な人生模様が描かれ、やる気に燃える俳優たちが出てきて、そこがこのドラマの救いなのでしょう。
音楽は全17曲からなり、「light and Shadow」「ON THE STAGE」「人生はミュージカル」など、耳に残り口ずさみたくなるような佳曲があって、楽しめました。オリジナル音楽で、この水準にあること自体が注目されます。生演奏(8人編成)であったことも特筆されます。最もワクワクさせるべき序曲がつまらないのが玉に瑕です。
手作りステージによくあるように、主人公がぐいぐいドラマを牽引するのではなく、様々な登場人物が織りなす群像劇の趣き。俳優、ダンサー、劇場支配人、脚本家、作曲家、裏方、劇場スタッフ、掃除係までキャラクターを付与して、個性ある人間模様が描かれます。
オーケストラピットとステージというミュージカル劇場の二層構造を効果的に使った舞台設定が効果的で、ピット壁際に陣取った演奏陣も舞台風景に溶け込んでいます。華やかなステージの陰で繰り広げられるドラマを、テンポよく演出しました。多すぎるほどの登場人物をうまく処理し、それぞれのキャラクターを生きた俳優たちの演技も魅力的でした。
本作は、名古屋市民芸術祭「舞踊」部門へのエントリー作です。であるからには、ダンス主体のミュージカルであるべきだと思いますが、意外に歌、芝居、ダンスの三位一体のミュージカルでした。傑出したダンサーはおらず、アンサンブル自体はよく練ってあります。しかし、ダンスシーンは高度なテクニックを必要としないショーの域。バレエシーンもありましたが、体が絞れていない男性バレエダンサーの起用はむしろマイナスでしょう。舞踊部門より、演劇部門参加がふさわしいと感じました。
小道具、舞台衣装も劇団員手作り。前売り2500円という低廉な料金設定は、団員たちの情熱と労力奉仕の賜物でしょうか。手作り感の良さを残しつつ、エンターテイメントとして楽しめるレベルにあったことは、評価できます。コロナ禍でリハーサルも大変であり、感染症が出たら上演中止という瀬戸際での挙行です。総合舞台芸術であるミュージカルをゼロから創造して、困難な時期に堂々上演したことは快挙と言っていいでしょう。(11月7日所見)