味わう

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驚異の超絶技巧が生む詩情
ヤマザキマザック美術館「四季折々の情景
美術館に息づく小さな自然たち」展
胸キュンのガラス茶器も

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 人間技とは思えない精緻なガラス工芸や陶芸技法。驚異の超絶技巧と集中力を注ぎ込んだ現代作家たちの詩情豊かな美術工芸の粋を、日本の四季を詠んだ俳句ともに展示する「四季折々の情景 美術館に息づく小さな自然たち」展が名古屋・新栄のヤマザキマザック美術館で2021年10月29日始まりました。

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 思わず目を凝らしました。レース編みのように繊細なガラスの植物群を生み出す土居陽子(どい ようこ)さんのガラス細工アートです。枯葉、待雪草にかかる雪の結晶。落花(金木犀と蜘蛛の巣)、梅にメジロ‥。バーナーで熱したガラスを細く引いて、ピンセットを使ってレース編みのように網目状につないでいきます。「自分が生きている中で惹かれる形を素直に残していきたい」という作家。「細かな部分まで時間をかけて作りこむことで、自然の造形の美しさの片鱗でも表すことができないか、試み続けています」という謙虚さが、作品に祈りにも似た清純さを纏わせているようです。

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 茶道愛好家必見なのは、三重県津市在住の川北友果(かわきた ゆうか)さんのガラス工芸です。四季の植物の花や実などを巧みなバーナーワークで浮かび上がらせます。季節の草花花をモチーフにした磨りガラスの「茶入」「香合」「振出」「トンボ玉(帯留)」が展示されています。

 植物の花弁や葉の露まで繊細に描写し、立体的に美しく可憐な茶器は胸キュンもの。溶けたガラスが描くしなやかな曲面、磨りガラスならではのやわらかな質感。作家性を主張しすぎない慎ましやかな造形が、お茶会のアクセントになるでしょう。

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 担当の学芸員さんに聞いたら、茶器としては結構リーズナブルな値段で入手できるとのことでした。

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  これが陶芸とは。絶句するような幻想的な造形を作り上げる稲崎栄利子(いなざき えりこ)さん。微細な針状の陶製パーツを集積して、深海の生物のような幻想的なオブジェを創り出します。この一作作るのに1年はかかるという入魂の作品「念力II」。黒い陶土と白い磁器の土を練り込んで、一本一本、針状に成形し、それを接合していきます。焼成前の土がやわらかい状態を保つため、常に加湿して、気の遠くなるような細やかな作業を繰り返し、最後は焼成して、針状の突起に金粒を浮かび上がらせます。

あまりに寡作のため、今回も出品は最新作の「念力II」など2点だけです。その驚異な技法と独創の作風から、数々の陶芸賞を受賞している注目の作家です。

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 このほか、黒の上絵付けを掻き落し、白い陶の上に墨絵のように大胆に虫や動物を表す九谷焼の井上雅子さん。

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 今にも飛び立ちそうな実物大のトンボや蝶々たちを緻密に陶芸で創り上げる小橋順明(こばし まさあき)さん。

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 一瞬の生のきらめきと移ろう陽の光の温かさを絵画に定着させた生川和美(なるかわ かずみ)さん。

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 身近な草花のさりげない美しさを無色透明なガラスで表現する深川瑞恵(ふかがわ みずえ)さん。

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 四季の花々や生きものたちを柔らかな造形と彩色によって表現する元木貴信・庸子(もとき たかのぶ・ようこ)さんのガラス細工アート。

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 虫や小動物をテーマに、生き物たちの魅力的な姿態や表情を丁寧に彫り上げる本多絵美子(ほんだ えみこ)さんの木彫。

 これら9組の作品を、ヤマザキマザック美術館所蔵のアール・ヌーヴォーのガラスや家具と取り合わせて展示し、四季と俳句を軸に広がる自然の情景に浸る、ユニークな展覧会です。

 会期は2022年2月27日まで。月曜休館。