磨き込んだ音楽、みなぎる気迫
第9回新進演奏家コンサート
山田貞夫音楽賞特選の3人
山田貞夫音楽財団主催の第9回新進演奏家コンサートが2021年9月24日、名古屋・伏見の三井住友海上しらかわホールで開かれ、山田貞夫音楽賞特選を受賞した若手ソリスト3人が、小松長生さん指揮のセントラル愛知交響楽団と協奏曲を協演しました。2013年から毎年開催。当初は、勢いはあるものの少々粗い演奏も見受けられましたが、評価が高まるにつれて年々充実。今回は、コロナ禍の中、演奏機会の多くを失った若手が、このチャンスにかける気迫がステージにみなぎり、磨き込んだ音楽が披露されました。
出演したのは公募オーディションで選ばれた▽パリ国立高等音楽院伴奏科在籍の福田眞弓さん(ピアノ)▽金城学院大学音楽芸術科出身の山内実里さん(クラリネット)▽愛知県立芸術大大学院博士前期(修士)課程修了の古川絢瑛さん(ピアノ)。
福田さんは、シューマン「ピアノ協奏曲 イ短調 Op.54 」を丁寧、繊細に弾いて、ロマンチックかつファンタジーにあふれる演奏を披露しました。他の協奏曲以上にシンフォニック的とされるこの協奏曲。ピアノが伴奏の場面もあれば、メインの場面もあって、その攻守交代がとてもおもしろいのですが、福田さんは伴奏を受け持つ際に、特にその美質が現れるようです。アルペジオによる伴奏形の美しさ、音の一つひとつが彫琢され、魅了されました。
第2楽章では、ちょっと慎ましげな福田さんのピアノを、小松さんが指揮するオーケストラがもっともっと歌おうよ、と愛の交歓を誘い、オーケストラとピアノの対話が繰り広げられます。第3楽章では、それまで抑制的だった福田さんのピアノが、凱旋勝利と歓喜の円舞を朗々と歌い上げます。小松さんのタクトは"伴奏の難所"とされるこの楽章をピシッと決めました。
山内実里さんはモーツァルトの晩年の円熟作、クラリネット協奏曲 イ長調 K. 622 を演奏しました。山内さんは、金城学院大学文学部に設置された音楽芸術学科の卒業生です。金城の音楽芸術学科は名古屋圏最後発の音楽高等教育機関です。ピアノでは既に優秀な人材を送り出していますが、管楽器出身は珍しく、管楽器首席卒業の山内さんのレベルが注目されました
もしかしたらお嬢さん大学の「お嬢さん芸」ではないかという私の思い込み(失礼)を、完全に払拭する本格派の演奏でした。クラリネットは低、中、高それぞれの音域に応じて音色が変わり、表現に幅と奥行きを持たせることができる点に魅力があります。山内さんは独奏パートを表情豊かに吹き分け、中音域のひだのある陰り、最低音近くの音域を十分に鳴り響かせ、高音域との対照効果を巧みに引き出しました。セントラル愛知の好サポートが作品全体を引き締めました。会場にいた音楽関係者から「金城の管楽器出身は初めて聴いたが、これほどやるとは」と感嘆の声が漏れました。
休憩を挟んで、トリは古川絢瑛さんのリスト「ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調」です。衝撃的で力強く登場する冒頭部から、古川さんの独自のピアノ世界に引き込まれました。あの細身から繰り出される強靭な打音、華やかな技巧をけれん味たっぷりに演奏するおしだしの強さ。音の粒立ちがよく、オーケストラとの全合奏にも埋没せず、光彩を放ちます。途切れない集中力と、瞬発力。全集中のエキサイティングな演奏でした。完成度の高い演奏は、出色の出来です。
若手音楽家を支援する公益財団法人山田貞夫音楽財団を2013年に創設。才能ある若いソリストと指揮者を発掘するオーディションを毎年開催し、音楽賞を授与とともにオーケストラと共演する機会を提供しております。
毎年秋に開催される新進演奏家コンサートは、オーケストラとのソリスト協演がクラシック専用音楽ホールできけ、入場料はわずか1000円の破格。注目すべき演奏会に成長しました。
(WEB茶美会編集長 長谷義隆)