真乃女
新作長唄「佛原」見事な初演
純烈な白拍子の栄華と求道
華やかな舞台人生も儚き夢、芸道精進そのものこそ悟り...。そんな舞踊人生の境地を舞ったものか。日本舞踊西川流のベテラン、西川真乃女が一門会「第15回しのじょ会華真」を2021年4月24日、名古屋・御園座で開き、後半2部を自身の作舞リサイタル形式とし、新作長唄「佛原」を初演しました。
コロナ禍で、大がかりな上演そのものが困難な時節。作曲・演奏陣は東京勢、舞台スタッフは名古屋勢。コロナで行き来が難しい時期に、一から創作する大曲は、いかに困難があったのか、想像がつこうというもの。
古典から世話ものまで、踊り、演技、語り、と芸達者な真乃女。半世紀余の舞踊人生の集大成に相応しい大舞台となりました。
舞台は平安時代。都で舞の名手と評判の若き白拍子・佛御前。平清盛の寵愛も儚い夢、捨てられた寵姫・祇王の姿こそ明日の我が身。髪をおろして出家した美貌の白拍子を描いた同名謡曲を、舞踊劇化。師籍半世紀余、ベテラン真乃女が培った舞踊はもちろん、舞唄、台詞が相乗。高い芸境、深い心境が投影された新作でした。
能を舞踊に移しかえる能取りは、名古屋西川流の初代家元からのお家芸。佛原は、奢る平家の影の下、咲いて散った薄幸の白拍子の数奇な物語。しかし、ドラマ性、演劇的な求心力、訴求力には欠けます。もっぱら演じ手の表現で、内面のドラマの肉付けが求められるのは、能も舞踊も同じと思われます。
真乃女は、見せ場の序章、終章の舞唄で、佛御前の愁いを秘めた栄華と、純烈な求道心を見事に踊り分けました。
時に能がかり、時に笛独奏、時に箏曲を交えた長唄演奏と、濃淡、変化に富んだの杵屋彌十郎作曲の音楽が舞踊劇を鮮やかに縁取りました。
杉本健吉下絵の「天人奏楽」緞帳をまでも、効果的にプロローグ、エピローグに使った、池山奈都子の心にくい演出です。
真乃女は。自身の新作初演だけでなく、育てた若手のために長唄新曲「大和の彩り」をプレゼントする剛毅さ。師匠の親心に応えて、若手男女5人がいい味を出していました。
(WEB茶美会・長谷義隆)