知る・学ぶ

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茶花 5分間勝負の本番
天下の「瀬戸六作」に生ける
「下生け」から模様替え
三英傑茶会の舞台裏

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お客をもてなす工夫は、茶の湯の大きな魅力のひとつです。花入(花器)と、そこに生ける花と、掛け軸の映りにはとりわけ意を注ぎます。有楽流拾穂園が担当した名古屋城での三英傑茶会(2024年10月13日)は、織田信長公の名を冠した「信長席」であったことから、花入には信長公ゆかりの「瀬戸六作」と伝わる壺を配しました。
瀬戸六作とは、永禄6(1563)年、領主であった信長公によって選ばれた瀬戸の名工6人のこと。箱書、窯印から加藤市左衛門の作と伝承される四耳壺です。本来は茶壺と思われますが、箱蓋表には「花器」とあり、花入として伝世したものです。

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花入としては大ぶり、堂々たる壺です。これまで表舞台で用いたことがなく、三英傑茶会が初使いとなりました。

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 一般の公共茶室、貸し席に比べて、名古屋城での茶会はとても時間的な制約が厳しく、支度と茶会開始は綱渡り。午前9時開門とともに押し寄せてくるお客に対して、われわれスタッフはその30分前にしか入場を許されません。門から茶席まで歩くと10分弱かかります。車での乗り入れ、搬入もその30分以内に完了させなくてはならず、さらに門から離れた駐車場に止めてから、再び広い城内を歩いて、茶席に戻らざるをえません。なんと茶会スタッフ泣かせのルールでしょう。かつてはもっと緩やかでしたが、茶会を担当する誰もが感じる、窮屈なルールを課せれています。

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 実際、席主である私が、車を置いて茶席に戻ったのは9時すぎ。まず、水屋、寄付、茶席を見回って、スタッフにさまざまに指示をして、やっと茶花に向き合います。
 この日投げ入れたのは七種。黄色の糸菊を芯に、ピンクの二輪咲きの菊、銘「鈴鹿」。芒の尾花を五本、そこへ膨らんだ茶の木の白い蕾、藤袴、話題の大河ドラマの主人公を意識して紫式部の実、さらに壺の口元から赤く実った烏瓜の実と蔓の葉を垂らして。「月清めばよもの浮雲空に消え‥‥」の歌を雄渾に筆を振るった近衛信尹公の和歌色紙に、呼応、相乗させる狙いをこめました。
花を入れているうちにも、スタッフから「お客様が続々詰めかけています」「もうお通しして、いいですか」などと、急かされます。おそらく、花を生ける時間は5分もなかったのでは、ないかと思います。

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いきなり本番で初使いは危うすぎます。実は一週間前に、料理でいう「下ごしらえ」ならぬ茶花の「下生け」。試し生けしました。その折は、葦の尾花に黄の小菊、烏瓜の三種生けを試みました。すがれた葦の尾花、葉っぱの風情も名残の茶にはいいな、とは思いましたが、近衛公のお軸の格調の高さには、あまりにもくだけていて、雰囲気が合わないと感じました。本番は調子のいい芒の尾花を厳選して、臨みました。

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茶花は野にある風情がいのち。投げ入れの特徴は「即興の翫物」、即座に生けてもてなす、ことといわれます。短時間で即興的にいけて、観賞に耐えられるようにすることが求められます。
しかし、そのための準備、段取りなくては、間に合わせの花になりかねません。床の間の室礼には席主の力量と努力、センスが詰まっているのです。