涼感に [祈り][水の循環]込めて
有楽流拾穂園で朝茶事
暑いさなか、早朝の爽やかさを味わう朝茶事が2022年7月はじめ、愛知県稲沢市の有楽流拾穂園で開かれました。コロナ禍明けのこの春から、拾穂園が始めた「茶事の愉しみ」シリーズの一つです。
茶道、俳句に通じて海外布教経験も豊かな宗教家を正客に迎えての茶事です。
暑中に行う朝茶事は涼感が第一。常より入念に茶庭を手入れして、空梅雨だった猛暑続きの日々、朝夕、水やりを欠かさず、庭を覆う苔の状態を保ちました。当日は名古屋地方は最高気温40度の猛暑の予想でしたが、早朝からたっぷり水を打った庭は、別天地のよう。
寄付には明治期に活躍した仏教画家の悲母観音図を掛けました。傾けた浄瓶の先から、黄金水のような浄水が降り注ぐ。そんな構図に想をえて、観音菩薩がもたらした祈りの浄水が滝となって、せせらぎとなって、大地や草木、人を潤し、自然に生きる生命の循環につながってゆく。
朝茶事とはいえ、涼感、季節感だけのテーマで茶事をすることに物足りなさを感じていましたが、全体を貫くテーマが定まり、それをサブテーマと絡めて、どう表現してゆくか。何回か試行錯誤を重ねて、大まかなシナリオ。演出プランが決まり、それに沿った(茶花、茶器の)配役を決めました。
朝茶事では、花が萎れやすいため初座の床に花を飾ることがあります。今回は初座に花、懐石後の後座に軸を飾ることにしました
初座の花は、いつも中立の合間に慌ただしく投げ入れる後座の花とは違って、じっくり構成して花を生けることができるため、ちょっと凝ったものにしてみました。
寄付から露地に出て、蹲を使って躙口から席入り。本席に続く小間席の床に丸山派の瀑布図をかけて、さらに本席に入ると、段丘を流れ落ちる滝の中段に見立てた吊り花入があり、そこから滝水が流れ落ちる様を蔓性のテッセンで表現。浄水の滴りが瀑布となって、滝の細流となって、朝露に濡れた蓮の葉上に水玉を浮かべる。水の変容をイメージして、3段構えの室礼を考えてみました。
床の間の棚は、武野紹鴎好みの牡丹棚、香炉は紹鴎在判の異色の香炉です。香木の銘は「谷水」。紹鴎ゆかりの茶器は、後座にも登場して、この日の一会のサブテーマが紹鴎であることが浮き彫りになります。
水の循環だけでなく、使われる茶器、草木も巡ります。
はじめに香炉棚として使われた牡丹棚、蓮の葉を浮かべた水鉢は、後座濃茶では水指棚、水指となり、テッセンは脇床の仏花器に移され、点前座に流れ落ちる浄水の滴をイメージさせる。
さらに薄茶では蓮の葉が再度登場し、水指の葉蓋となります。道具、草木も水のように循環して、役目を変えて現れては消えてゆきます。
もちろん、茶事の愉しみは道具や室礼だけではありません。心を込めた懐石料理の数々。どれも、朝茶事にふさわしい献立でした。
拾穂園の茶事の愉しみ、次回は夕ざりの茶事です。暮れなずむ秋の夕べ、虫の音がすだく夜長を和蝋燭の灯火のもと、楽しもうという趣向です。
9月17日(土)夕刻参集を予定しております。
詳しくは、メールでお問い合わせください。sabiejapan2021@gmaii.com