幻の美濃古陶「寛永染付・藍織部」
実物を前に熱く語る
阿弥の会が眼福の一期一会
美濃桃山陶の"残照"ともいうべき「寛永染付・藍織部」の伝世品約30点を一堂に展示して、実見稀な「幻の美濃古陶」を熱く語る会が2022年2月19日、名古屋・伏見の「ぎゃらり壺中天」で開かれました。
寛永染付、あるいは藍織部、美濃染付などと呼ばれるこの古陶。江戸初期、織部焼衰退期に美濃に出現し、中国からの大量輸入された古染付や勃興する伊万里焼に駆逐されたのか、わずか20年ほどで消えたレアものです。謎めいたこの美濃古陶にスポットを当てた画期的な催しは、同店の月例茶話会「阿弥(あみ)の会」の第4回として開催されました。
店3階の多目的スペースには、半筒茶碗(深向付の転用か)や水指、鉢、向付、皿、硯、花入などの伝世品約30点のほか、陶片約10点も飾られ、壮観です。この日のために、コレクター2人が奇特にも収集品を持ち寄り、特別展示したのです。
寛永染付がまとまって展示されるのは、管見ではこれが初めて。焼き物好きには、うれしい眼福のひとときとなりました。WEB茶美会では、所有者の了解を得て、サイト上にその優品をアップしましたのでご覧ください。
出陳者2人、英次郎さんと中野野庵さんはこつこつ収集に励み、モノに触発されて目を養ったようで、謎の焼き物を巡る様々な先人の知見を探り、時代背景、分類などについて、在野の立場から独自に調査研究。これらを基に、私見を交えて、時にクールに時に熱っぽく寛永染付を語りました。
英次郎さんは、寛永染付を「慶長末から元和・寛永の江戸初期、美濃において染付を目指して焼かれた焼き物」と定義。収集した寛永染付を以下の4つに分類しました。①濃淡はあるが織部様式の匂いがする藍織部様式②中国・景徳鎮染付の最上手を模倣した雲堂手様式③中国から大量輸入された下手の古染付を模倣した古染付様式④隆盛となった伊万里焼を模した初期伊万里様式―の4分類です。
英次郎さんは、瑞浪市陶磁資料館研究紀要第12号の河合竹彦氏論考を引用する形で「寛永染付の絵には、キリシタンに関連した文様が多い」と指摘しました。
例えば「ザビエル蟹」。宣教師ザビエルは布教の船旅の途中、海に落としてしまった十字架を、この蟹が探し出してくれたと言われています。「キリシタンにとって、蟹といえばザビエル。十字架が密かに描かれたこの茶碗をザビエルとみなして、ひそかに信仰を深めていたのではないか」と話します。参考品として、志野織部の蟹と十字架文皿もあわせて紹介して、「陶工の中には、キリシタンがいた」と自説を展開しました。
寛永染付の窯場のある東美濃は、戦国時代から江戸前期にかけて人口の2割前後がキリシタンだったとされる地域。江戸前期の大弾圧の後、キリシタンは一掃されたかのようでしたが。長崎だけでなく、驚くことに美濃にも隠れキリシタンはいたとのこと。実際に、十字架を刻んだ石などの遺物が出土した「隠れキリシタンの里」といわれる岐阜県御嵩町謡坂地区があります。寛永染付には禁教になってもなお、キリシタン信仰を象徴する文様が潜んでいる、と主張しました。
一方、中野さんは、発掘調査の成果、文献・歴史的裏付けによる論証、美術・陶芸史的な考究という多角的な視点で、この古陶の謎に迫るべきだと熱弁を振るいました。中学時代に陶片に出会ってからの、これまでの膨大な史料、参考文献検討の成果を披露しました。長期にわたる研究の結果「藍織部は、古田織部が生きていた慶長末期には焼かれていた可能性が高い」「藍織部は極端に生産数が少なく、発掘されても志野、織部、黄瀬戸の陰に隠れて詳細不明な焼き物として注目されなかった」「しかも後世、似通った元贇焼(げんぴんやき)、御深井焼(おふけやき)などと混同されて、ずっと不遇だった」との見方を示しました。
ちなみに、元贇焼は明からの帰化人陳元贇 (ちんげんぴん) が寛永(1624~1644)のころに名古屋で焼いた陶器。瀬戸産の陶土を用いた素地 (きじ) に呉須 (ごす) で書画をかき、これに白青色の透明な釉 (うわぐすり) を施したもので、作行が寛永染付と似通い、元贇焼と箱書きされた物が寛永染付だったりしているそうです。
WEB茶美会編集部の見るところ、織部焼衰退後の寛永染付末期の焼き物は、魅力に欠けますが、織部の匂いが残る藍織部は小粋です。桃山時代の織部焼全盛期の力感、歪みの美には欠けるものの、日本からの中国注文品である祥瑞(しょんずい)茶碗、古染付茶碗よりも、和物ならではのやわらかさ、雅味があります。お茶で珍重される祥瑞や古染付、あるいは絵御本、御本弥平太といった中国や朝鮮への注文ものより、もっと評価されていい茶陶だと思います。戦乱の世から泰平の時代に切り替わる転換期に生まれて、儚く消えた激レアの和物茶碗なのでしょう。
今回の発表のレジュメ、作成資料は、以下のURLで公開されております。研究成果を広く分かち合おうという主催者、発表者の心意気に感銘を受けます。
なお、某コレクターが「寛永染付の名品中の名品」という水指など3点を放出。ぎゃらり壺中天で、展示即売しております。同店恒例の「春秋オークション」(2月27日まで)の売り立て品とともに、ご覧になるのも一興です。
https://drive.google.com/file/d/1Qt-xpAnd1y1RuGT22EqUfmPKJF80rQ4L/view?usp=drivesdk英次郎さん
https://drive.google.com/file/d/1enbUB8R4LW4td7DL-1egwbcU9AAkV8Hg/view?usp=drivesdk英次郎さん追加
https://drive.google.com/file/d/1hc6G2Jh3ATs6dmD8UUz_9Pa8PCAekTm2/view?usp=drivesdk 中野野庵さん