万葉抄
生い茂る葛
思い続ける恋心
真田葛延(まくずは)ふ夏野(なつの)の繁くかく恋(こ)ひば まことわが命 常ならめやも 詠み人不詳
ま葛ののびる夏野のように、しきりにこれほど恋うていたなら、本当に、私の命はどうかなってしまうのではないだろうか。
私の住む神奈川県西部の町では、河川敷や野山で、大きな葉っぱと長い蔓、紅紫色の花が目立つようになってきました。
葛は「万葉集」に詠まれており、古代から身近にある植物でした。強靭な蔓が長く伸びた様子をあらわす「真田葛延ふ」は永く絶えないことを比喩した表現です。
「かく恋ひ」はそんな葛の蔓が夏野に生い茂るように、絶えず思い続ける恋を言うそうです。
繁殖力が強いので厄介な雑草と化している葛ですが、根は薬用や食用になります。
葛根湯や葛粉のほか、なかでも吉野の本葛は高級和菓子の原料となります。
文・写真 内藤 啓