万葉抄
朝顔、利休居士の美学
秀吉招いた朝茶事の逸話
千利休の花に関する逸話は多くありますが、特に有名なのが、『茶話指月集(さわしげつしゅう)』に記されている朝顔の逸話です。
関白秀吉は、利休の屋敷の露地に美しい朝顔が咲き乱れているという噂を耳にし、朝顔の茶の湯を所望しました。
当日、秀吉が利休の屋敷を訪れると、庭の朝顔は一株残らず引き抜かれて、何もありません。あっけにとられながら茶室に入ると、床には見事な朝顔が一輪だけ入れてあり、これには秀吉も大いに感心したという話です。
利休居士の大胆な趣向ですが、美しい朝顔をたくさん見せるのではなく、その中からよりすぐった最高の一輪だけを見せたのです。
利休居士の美学を垣間見るエピソードです。
この逸話があまりに有名で、茶人は敬意を表し、また、遠慮し、あまり使わないようですが、利休居士の美学を伝承していくためにも、入れたい花です。
文・写真 内藤 啓