祈りをテーマに企画展
最新作から古美術まで
新生ぎゃらり壺中天
なにごとの おはしますかは 知らねども かたじけなさに 涙こぼるる
家族を捨て世を捨てて漂泊の旅に出た西行法師が伊勢参りしたおり、その神々しさに胸をうたれて、歌を詠みました。この和歌に、日本人の宗教観がよく表れています。
目には見えないけれど、何かが、誰かがそばで見守ってくれている。
そう感じられるだけで、涙がこぼれるほどありがたい。そんな聖なる存在への想い、祈りをテーマに、現代作家の創作品とともに、仏像、写経断簡などの古美術を同列に並べて展観、販売する注目の企画展があります。
「祈」いのりのカタチ 展です。5月15~22日、名古屋・伏見のぎゃらり壺中天で開かれます。
https://kochuten.net/
出展する現代作家は6人。陶芸の内田鋼一、書の小林紅琳、俳句の馬場駿吉、建築設計の山田高志、石彫の佐藤智、写真の水野誠司・初美 。
現代アートの先端をゆく作家たちが、それぞれの領域で祈りをどう具象化、表現するのか。見どころです。
手元に置いて鑑賞できる現代アートとともに、古美術に強いのが、ぎゃらり壺中天です。手狭になったこれまでの店舗から移転し、4階建てビル一棟ごとギャラリーに。その新装オープンを記念した意欲的な企画です。
企画展を前に訪れると、すでに陳列が済んでいました。1階の奥まったコーナーで、平安写経の掛け軸が目がとまりました。
「紀州池田庄金剛寺常住」の黒印があります。豊臣秀吉の紀州攻めなどで衰退して廃寺となった金剛寺の什物と知られる写経断簡とのこと。平安時代後期に書き写され、金剛寺に納められていた大般若経600巻のうちの断簡です。
大災害、気候変動、コロナ禍、、うち続く災厄。世も末だ、と不安がるのは現代も、平安の昔も、同根の負のスパイラル思考かもしれません。末法思想から生まれただろう能筆の写経が千年の時を経て、現代伝わってあることを思うと、人間はいつの時代も、世も末だと思いなが喉元過ぎれば熱さを忘れて、生き延びてきた存在だと思わずにいられません。
写経断簡の前に、鎮座するのが、円空仏です。諸国行脚して、木の中に仏を見出して彫り続けた円空さん。生涯12万体もの木彫仏を彫ったとされますが、これはそのうちの逸品です。ゴツゴツした岩場の上に立つ蓮台が異形な迫力。どっしり結跏趺坐した仏さまは、温顔に見えて、峻厳。厳しくさの中に、温かく包容力のあるお姿が印象的です。
今回の古美術展示の、眼目の仏教美術と見ました!
このほか、美術好きにはたまらない品々が展示されております。
この道30年余、店主の服部清人さんが編んだ古今の祈りのカタチ。眼福あり、拾い物あり。一見の価値のある企画展です。入場無料。