一器・一花・一果
南蛮趣味の織部馬上杯
ぐりぐり文の弥七田
信長公の命日に
梅雨の中休み。というか、五月晴れが続くこのごろ。取り出してみたのが、この馬上杯です。
馬上杯は、出陣する武将が必勝祈って騎馬したまま、杯を飲み干したとされ、片手で持てるような形となっています。
武家茶ではとくに好まれます。
大胆なぐりぐり文が器の外周に巡り、見込みは渦巻文となっています。ビードログラスを模したものか、高杯の糸を通すところがハートマークになっていて、南蛮趣味が色濃い器形です。
美濃桃山陶の最後期、弥七田織部です。弥七田は瀟洒にすぎてどこかひ弱になりがちながら、この馬上杯は、どこかユーモラスでひょうけて、織部焼の本領をゆく豪放さがあります。
この茶碗を、何年か前に茶どころ名古屋を代表する月釜、木曜会を担当した際、席中の主茶碗として茶を点てて出したところ、大いに好評を博しました。
戦乱の世の平定間近に倒れた織田信長公 。6月2日は不世出の武将の命日です。
茶美会日本文化協会の本部茶室拾穂園がある場所は、濃尾平野のただなか。信長公が生まれた勝幡城にほど近いところにあります。
手のつけられないやんちゃ、大うつけの若き日の信長公。その昔、この辺りを裸馬に乗って、駆け巡っていた、と想像すると楽しくなります。