苦節38年、公益社団に
セントラル愛知響
立役者に恩返し演奏会
苦節38年、草の根オーケストラが公益社団法人の認定を受け、認定の立役者に感謝するコンサートが2021年5月9日、名古屋・伏見のしらかわホールでありました。
セントラル愛知交響楽団の山田貞夫理事長感謝コンサートです。同オケ常務理事の瀬戸さんが冒頭の挨拶で「山田理事長個人から一億円の寄付を受けて、晴れて公益社団法人の認可を受けました」と明かしました。いくらオーナー社長とはいえ、1億円はポケットマネーの域を遥かに超えております。
関係者のみのクローズドコンサートでしたが、第一曲のヴェートーベンのエグモント序曲から緊張感がみなぎって、内から湧き出る音楽の力があり、楽団員たちの深い感謝の表出がズンと伝わってきました。
山田さんは、休憩中、急きょ思い立ち、ステージに上がって、副理事長の中西政男さん(中西電気工業会長)と瀬戸さんと鼎談。そこで、集まった関係者に訴えました。「このオーケストラを日本のベストテン入りするよう、どうか支援してほしい。法人会員、個人会員になってください」
同楽団は、ナゴヤシティ管弦楽団を前身に1983年に発足。東海地方では、名古屋フィルハーモニー交響楽団に次ぐ歴史があります。経営基盤が弱い自主オーケストラの常ながら、何度も窮地をくぐり抜けました。
下積みの苦労が生む人間的な温かさ、音楽をする喜び、学校公演で鍛えた聴衆の掴みの良さが、このオーケストラの魅力です。若い才能をいち早く見出し、世に送り出してもいます。今をときめく指揮者山田和樹もその一人です。東京芸術大学卒業後くすぶっていた山田和樹に初めてプロオーケストラを指揮する機会を与え、学校公演の演奏旅行に帯同して、現場経験を踏ませました。地元ゆかりの若いソリスト、指揮者たちも、セントラル愛知響との共演を重ね、羽ばたいています。
オーケストラ自体もこの10年で演奏力を伸ばして、感動的な演奏を展開しております。
この草の根オーケストラを1994年より、支援してきたのが山田貞夫さんです。父親から譲り受けた零細部品問屋を、一代で年商1000億円の企業に成長させた、名古屋財界立志伝中の人です。幼くして母を亡くし、弟、妹を食うやくわずで過ごした少年時代、SP盤で聴いたヴェートーベンの交響曲に勇気づけられ、破竹の勢いの企業人生の傍に、常にクラシック音楽があるという人物です。
山田さんは昨年、前任者の死去に伴い、理事長に就任。一般社団法人だったセントラル愛知響を、寄付金の免税措置を受けられる公益社団法人化に、多大な貢献をしました。
山田さんは、経営するダイドー株式会社の持株50億円相当を寄付して、若手音楽家を支援する公益財団法人山田貞夫音楽財団を創設。才能ある若いソリストと指揮者を発掘するオーディションを毎年開催し、音楽賞を授与とともにオーケストラと共演する機会を提供しております。
コロナ禍で依頼コンサートがほぼ皆無になった同オケは、収入を断たれ、存続すら危ぶまれる状況でしたが、昨春以来、山田理事長のテコ入れを受けて、この4月には長年の懸案だった公益法人化まで一気に果たしました。
この日の指揮者は、元音楽監督で名誉指揮者の小松長生さんでした。かつてのイケメンは近年は、ブラームスのように豊かなあごひげを胸元まで蓄えた独特の風格で、指揮台に立ちました。東大美学科卒業の明晰な頭脳と、一攫千金の廻船問屋、三国港の北前船の船主を先祖とする豪快なきっぷが、共存する指揮者です。1億円寄付の男気に、奮い立つ指揮棒。渾身の力を振り絞るオーケストラが相乗作用して、大盛り上がりの演奏会になりました。
セントラル愛知響の次の定期演奏会は、5月14日金曜、しらかわホールであります。