知る・学ぶ

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「幻の遠州古曽部」か
定家様「古曾部」窯印の建水
定説「遠州七窯は伝承」に一石?
10月13日三英傑茶会で初公開

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「遠州七窯」の一つといわれながら、小堀遠州時代の伝存品がなく、遠州七窯は伝承にすぎないとされている古曽部焼(こそべやき)。納戸に眠ったままになっていた家蔵の古曽部焼の建水(こぼし)を初めて茶会で使うべく、取り出してみました。驚きました。"身びいき"なしに客観的に眺めてみても、端正、瀟洒な窯印や作行きから、どうも本作は「幻の遠州古曽部」ではないか、という印象が強まってきます。
これまで、古曽部焼の地元、高槻市(大阪府)でも、古曽部焼の遠州七窯説は「伝承」にすぎないというのが公式見解。この定説に対して、ささやかながら一石を投じたく、本稿を公開しました。みなさまのご意見、ご批判を乞う次第です。

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本作は、面取りした高台脇の土見せ部分に、窯印がくっきり。「古曾部」の窯印です。藤原定家を敬慕し独特の書体「定家様」をよくした小堀遠州の美意識が、窯印からも伝わってくるようです。さて、気になるこの窯印。茶陶関連図書に当たってみました。一般に流布している古曽部焼の窯印は、江戸後期以降の再興古曽部焼の窯印ばかり。いかにも民窯風です。普段使いの雑器を主に焼いていた再興古曽部は、どうも遠州七窯の茶陶らしい気品に欠けるように見えます。

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ネットで文献調査すると、江戸後期の「本朝陶器攷證」( 金森得水著述)がヒット。古曽部焼の欄に、遠州の書体風の窯印が2種載っていましたが、本作とは微妙に異なり、合致しません。遠州時代から二百年後に編まれた本ですから、すべて網羅しているとは限りません。

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高槻市史編纂委員会編集「高槻市史」第2巻(1984年)では、古曽部焼について詳述するも、起源に関する諸説を紹介しつつ、作例が実在しない、平安期および近世初期の窯跡が未発見であるなどの理由により、遠州古曽部を含めこれらを「伝承」とみなしております。江戸後期~明治末年の五十嵐家五代による窯業のみを「古曽部焼」と決めつけております。

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今どきのはやり言葉。「はて」が口をつきます。


家蔵の古曽部焼は、わずかに片口になっていて、高台に向かって器の裾がスパスパとヘラ削りされ、土見せの高台脇はグルッと面取り。御深井釉のようなオリーブ色の釉薬がかかって、釉薬は素地にピタッとかみ合って釉と陶土の相性よく、無駄な釉だれはいっさいありません。軽快、瀟洒な造形、水漉しされたきめ細かい土味。茶人の指導が行き届いた作行きです。いずれも「綺麗さび」の遠州好みを表しているように見えます。

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「古そべ こぼし 遠州切形」と墨書した和紙の張り札がある箱は、古色蒼然。黒漆塗の箱蓋の一部に古い時代の虫喰い跡があり、数百年は経っていそう。古陶磁の伝世品の箱を数多く見ていますが、江戸時代もかなりさかのぼる古さを感じます。この建水がぴったり収まります。元箱のようです。箱書はありません。
比較対照する類品がないため、遠州古曽部だと断定はできませんが、民芸調の再興古曽部とは明らかに作風が異なり、遠州好みを色濃く体現している一品ではないか、と思われます。


古曽部焼は家蔵ではこの建水だけ。それもそのはず、長年古陶磁を愛好、収集し、とりわけ茶陶には関心を寄せておりますが、全国各地をみて回った美術館、博物館、茶会、道具屋さんでも遠州古曽部を見ることがないのですから。古曽部焼については知識が乏しかったことを打ち明けます。
しかし、茶会で使う以上、家蔵の古曽部焼のことだけでも知っておこうと思ったのが、今回の調査の動機。遠州七窯の一つと挙げられているだから、遠州古曽部はあって当然と思い込んでいました。まさか実物の現存がまったく世に知られておらず、その存在自体が「幻」になっているとは、つゆ知らず。それも、驚きでした。

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この建水は、来たる10月13日、名古屋城(名古屋市中区)である「三英傑茶会」信長席でお披露目いたします。とはいっても建水は建水。茶碗、茶筅をすすいだ水をこぼす器であることから、茶陶として末座に扱われます。室礼の中の、端役にすぎません。そこにも適材適所の目配りをするのが、茶人の心意気でもあります。
建水などふだんなら拝見を請われても、固辞するのが席主の見識。しかし、今回は特別。「WEB茶美会を見ました。ぜひ拝見を」の秘密の合言葉(笑)を囁いてください! WEB茶美会編集長でもある拾穂園子、WEB茶美会ご愛顧の方の所望をむげに断るわけにはいきません。禁をやぶってでも、お見せしちゃいます。(笑)
見識ある皆様のご意見賜れば、と存じます。

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三英傑茶会は事前予約制。会費1万円。満席まじか。拾穂園の手持ち茶券は完売しました。