古流の教え⑥
点前・所作に宿る武士の心
有楽流の筒茶碗の扱い
寒さひとしおの寒中、茶の湯では筒茶碗が好まれます。筒茶碗は常の茶碗より深く、口が狭め。お茶が冷めにくく、両手で包むように持つため、手のひらからも温みが感じられるのです。
武将茶人、織田有楽斎を流祖とし、江戸時代は尾張徳川家が重用した茶道有楽流(尾州有楽流)は、師弟伝承で点前が受け継がれた古流です。有楽斎は、武門の雄だった織田家の茶道らしく、さまざまな武芸の型、武士の心得が点前、所作に織り込んであります。筒茶碗特有の点前にも、それが現れます。
茶筅の穂先を調べて、竹の穂を湯に馴染ませる「茶筅とうじ」の所作は一種独特です。筒茶碗を傾けて、傾けた同じ角度で茶筅を取り出すまでは他流と同じ。ですが、有楽流では刀の鞘(さや)から刀身を引き抜くような心持ちで行います。小さな差異ですが、生み出すピリッとした空気感が異なります。
ほかにも、点前の始めとしまいに、柄杓の柄(え)に指をそわせる時は、左手指は槍の柄をしごく心持ちで行う、など武芸の形が随所にあります。
流れるような古雅な点前・所作には、時折ハッとする剛健さがあって、武家茶道らしい凛とした空気感を醸します。点前をすると、そこに込められた古人の茶道観、処世観に直に触れる心持ちになります。
有楽流には比較的多くの茶書が伝わっております。点前の順番や茶器の置き合わせを記した茶書・伝書の類は、音楽に例えるなら楽譜のようなもの。楽譜は大切ですが、楽譜に書かれざる演奏習慣や伝統はレッスンによって口頭伝承され、身体性が受け継がれるのだと思います。
点前・所作の緩急、強弱はもとより、呼吸、様式性、雰囲気といったことは伝書には書かれていません。「口伝ならでは教えがたし」。対面伝授での学びなくして、流風は受け継ぐことはできないことは、言うまでもありません。