知る・学ぶ

知る・学ぶ

古流の教え④
見よきように
破れ蓮に初咲き椿
いのちの果てと新生
一期一会の場面転換

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 WEB茶美会の本部茶室がある有楽流「拾穂園」。茶室周りの庭には、お客さまから見えないように20本以上の多種多彩な椿を育てています。風炉の時期が終盤を迎える10月、椿の花芽が次第に膨らみ始めます。先日、拾穂園で開かれた名残の茶会には、この日を待っていたように、中京椿の名椿「関戸太郎庵」が初咲き、さっそく投げ入れました。

 やつれを大切にする名残。炉の代表花である椿をただ投げ入れたのでは、茶味がありません。そこで、大やつれの破れ蓮の葉っぱの下から、初咲きの関戸太郎庵がのぞくように、茶花を構成してみました。

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 「いのちの衰えと、新たな命の兆し。残花と新生、二つながら味わえて、感銘を受けました」。名古屋有数の名刹にある茶室で日々、茶花をいけ室礼を担当するお茶人から、お褒めの言葉をかけられました。
 「籠も味わいがありますね」。用いた花入は、耳付の時代の竹籠。何百年もの時代を経た竹の味わいは格別で、時代づけをした擬似的な竹籠にはない風合いがあります。

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 初座は、和歌と七言絶句の和漢詩歌の二幅対の掛け軸に対して、床畳に据え置き、後座は破れ蓮を引き抜いて、華麗な糸菊をかわりに投げ入れて、壁の中釘に掛けてみました。

 茶会の定石だと、初座の床は軸飾り。後座は軸を外して、茶花のみ飾るものです。しかし、初座・後座ともあえて、軸も花も飾る「もろかざり」にして、花の位置を大きく変え、花の種類もやつれから豪奢へ差し替えることで、趣向の転換を試みてみました。

 二幅対の掛け軸を掛ける位置も、初座では狭めにして、一方、中央に花を挟む形になる後座では広めに掛けるなど、微調整してみました。

IMG_7999.JPG 有楽流の伝書、貞要集は大意「先人がとり行ったやり方、置き合わせを学びつつ、その場の感興、茶趣を催すことが大切であり、何事も見よきよう工夫すること」と教えています。定石を知った上で、最も効果的な置き合わせ、取り合わせを追求する有楽流の創意工夫。単に見た目が良いだけでなく、内実が伴っていなければなりません。

 置き合わせにおける「カネ割」の感覚を養っていなければ、即座の変化は単なる恣意的な掟破りに陥ります。規矩を知った上で、時に打ち破る。即興的に見せながら、計算された演出が背後にあります。座替えはほんの暫時。花だけではありません、薄暗くしていた部屋の障子を開け放ったり。静かながら、劇的な模様替えが、新鮮な効果、感動を生みます。

 大寄せ茶会ではまずできない、庭屋一如の拾穂園ならではの一期一会です。