万葉抄
七重八重花は咲けども山吹の
七重八重花は咲けども山吹の実の一つだになきぞ悲しき
15世紀に活躍した武将太田道灌。ある日、道灌が鷹狩中、急に雨が降ってきて、
近くの小屋で蓑を借りようとしたところ、中から出てきた若い娘は、
黙って山吹の花一枝を道灌に差し出しました。
花ではなく蓑が借りたいのにと、道灌は怒って立ち去りました。
後でそのことを家臣に話すと、それは、
七重八重花は咲けども山吹の実の一つだになきぞ悲しき
という古歌を踏まえ、「実の」を「蓑」にかけて
娘は貧乏でお貸しする蓑一つないことを、黙して告げたのでしょうと語りました。
道灌は自らの浅学を恥じて、和歌に精進し、立派な歌人になったと言われています。
毎年、山吹が咲く時季になると、この故事を思い出します。
文・写真 内藤 啓