特集

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一器・一花・一菓
渋い古丹波「六角水指」
森の貴婦人をいける

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 茶美会日本文化協会の本部茶室「拾穂園」の庭にある大山蓮華が、見ごろを迎えました。

 「森の貴婦人」「山の女王」と呼ばれる大山蓮華は、炉から風炉に切り替わる初夏、茶席では「一番のご馳走」とされる茶花です。千利休がとりわけ好んだ茶花の一つです。蕾から漏れ出したなんともいえない香気が部屋を満し、さながら森林浴のよう。心身をリフレッシュさせてくれます。

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 白い大玉の蕾が大葉に映える大山蓮華を、古丹波の壺に投げ入れてみました。六角の面取りをした壺は、古丹波特有の灰だら釉が流下してまだらの暗褐色が器面を覆い、いかにも侘びて控えめながら、変化に富んだ釉調をなします。

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 茶入さながら、口づくりのひねり返しは精妙。底部はごく低い高台が付き、わずかに面取りされ、底部の丸から胴部は六角に造形され、微かに胴中央部を締めた姿は、茶人の美意識が宿ります。明らかに茶陶として焼造されたものでしょう。

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 草深い兵庫県丹波山中で生まれ、中世から続く古窯・丹波焼。侘び茶が流行した室町末期から桃山時代にかけて、同じ焼き締め陶の信楽、備前が数多くの優れた茶陶を生み出したのに対して、農村の雑器生産が主だったためか、茶陶は極めてまれです。

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しかし、丹波茶陶は希少ゆえ、ほかの茶器と差し合ったり、ダブったりすることがないため、あれば取り合わせに重宝します。この六角壺は、丹波名産の朝倉山椒を入れて貴顕に献上するための容器だった朝倉山椒壺の先駆をなすものかもしれません。


 IMG_5796.JPG名高い朝倉山椒壺は江戸初期の約30年間焼成され、茶人によって水指に見立てられました。たばこの葉を入れて日本に将来したと伝えられるオランダの壷を、茶人が水指として珍重した和蘭陀焼の莨葉水指と似通います。

和蘭陀以上に伝世が少ないのが、古丹波の山椒壺でしょう。

 江戸初期の「朝倉山椒」の陶印があるものが有名ですが、しかしながら、高さ30センチ前後もある朝倉山椒壺は、水指としては大きすぎ「ころ、なり、様子」を重んじる茶席では実はやや難があります。
 この点、この六角壺は水指として好適の大きさ。時に花入として使うのも一興でしょう。渋く底光りする古丹波の茶陶。これから風炉の茶会にどう使うか、思いを巡らすだけで、楽しくなります。